現代風俗研究会 3月例会 アグロス胡麻郷 橋本昭さん+江藤千絵子さん
槙田 盤
発行年月: 20060426
掲載 : 現代風俗研究会 会報「現代風俗」162号
発行元 : 社団法人現代風俗研究会
野菜を年間テーマとする2回目は、日吉町上胡麻で農にたずさわっておられる橋本さんのお話をうかがうことができた。橋本さんは、もともと京都市内の生まれ育ちで、学生の時に始めた飲み屋の屋号が「贋作」。ということで、今でも贋作さんと多くの人から慕われているが、1974年、なんの音もしない奥まった谷に住み着いて田んぼを耕し始めた。飲んべえ相手に消費をする側ではなく、なにかをつくる場での「重さ」がほしかったのだという。はじめての稲刈りのあと、もみを手で受けたときの感覚が今でも忘れられないそうだ。
当初から京都の知人のところへ出来たものを自分で届けていたが、産地直送の共同購入の体制をとるようになる。地域の人々とは、しばらくとけこむことはなかったようだが、1986年ごろから、近くにできた明治鍼灸大学附属病院や小学校に納品するようになるなど、他の農家と共同して出荷する体制をとるようになった。1999年には山陰本線胡麻駅前で「土曜市」を始め、そして昨年、直営農場や農産加工、集出荷などをおこなう「有限会社アグロス胡麻郷」を法人化した。当初3反半ほどではじめた農地は、周りの人から頼まれるようになり5町歩ほどになったという。
現在は農民の質の転換点にあるとのこと。法人化したとはいえ、農業を事業としてとらえ、高く売れればそれでよいというのは間違いだ、そんなパーツとしての問題ではなく、地域文化、そこでの生活をどう成り立たせるのかが重要だという。ストレスの多い現代社会で競争して暮らすのではなく、お天道様のめぐみをうけ、仕事と娯楽とが分化していない「農的風土」を取り戻せるかどうかが、都会も含めた日本全体の問題だとする。資本主義は、草もちょっとしか育たないイギリスが発祥の社会システムであり、日本・モンスーン地域だったら、万葉集的、梁塵秘抄的な、もっとおだやかなシステムが生まれるはずだ、というところまで話が進んだ。
つねひごろ、今日の自然・環境志向は、現実性がとぼしく、また、田舎社会のややこしさ(価値観の多様性)とは折り合いがつきにくいと感じていたが、贋作=橋本さんが結び目になって、過去と未来、都市と農村、若者と年寄りとが接点を持ちえていることはしあわせなことだと思った。生活実感として、あるいは現代風俗として、お野菜がおいしいとか、味が薄くなったとか、便秘にいいんだとか、そういうところから、農の現場と都会の食卓とが「共闘」できる、というか、尊敬しあえるようになるような予感がした。
例会は、現風研会員との会話のやり取りによってほのぼのと進んだ。お持ちいただいた白菜などをそのままかじったりもした。女性のもんぺ姿、たちしょんべん、夜這い、六尺ふんどしから、戦時中から戦後にかけての農村と都会との心情的敵対関係、など、リアリティを持って話がもりあがるところが、なんとも現風研であった。
槙田盤 MAKITA Van