大衆演劇に育てられた学者が五條会館を復活させた
槙田 盤
発行年月: 20060620
掲載 : 京都芸術センター通信「明倫art」Vol.74 2006年7月号 演劇レビュー
発行元 : 京都芸術センター
「大衆演劇に育てられた学者が五條会館を復活させた」
南條まさき 芸能生活25周年記念リサイタル
五條会館(五條楽園歌舞練場) 2006年3月26日(日)13:00−
南條まさきは大衆演劇の役者でもあるが、本業は大学教員である。社会学を学ぶ大学院生のときに「市川ひと丸劇団」(現・劇団むらさき)の一員として1年あまり育てられた。今もときおり舞台に出ているが、学生を指導して女剣劇団を育てたり、大衆演劇を街頭パフォーマンスにした「四畳半劇場」を始めるなど、大衆演劇の枠にとどまらない活動を展開している。
公演は口上に始まり、次に講談仕立てで、南條まさき本人が写真をスクリーンに投影しながら思い出話を語った。第2部の芝居「師弟愛」は、劇中劇として忠臣蔵「松の廊下」の場面を含んだもので(立派な松は五條会館の鏡板)、まさきが得意とする化粧支度を見せるシーンもあり、なるせ女剣劇団のメンバーを従えた堂々たるものであった。第3部の舞踊・歌謡ショーでは、まさきは女形での踊りや唄、棒に縛られての扇子芸、「近松心中物語」など多彩な姿を見せた。もちろん場数を踏んだものではないのだが、人々がなにを喜び楽しんでいるのか学問として追求し、それを自分でもなんとか表現しようとする気持ちが伝わり、それが大衆演劇らしい魅力となっていた。まさきの師匠である南條すすむ(劇団むらさき太夫元) 、弟弟子にあたる市川ひと丸(劇団炎座長)両人は、ゲストとして舞台に花を添えるにとどまらず、プロとしての格の違う迫力を見せつけた。女剣劇団のメンバーは、そろって闊達に、かつ粋のよいところを示した。一回限りとするのはもったいないパフォーミングアーツ公演であった。
会場でニコニコ見ていた鶴見俊輔が賞したとおり(京都新聞4月17日夕刊)、南條まさき=鵜飼正樹は京都の学界に列する学者となった。それだけでなく、学問がその現場となる世界の人々と幸せな関係を築き、資することができることを、みずからのパフォーマンスで示すことのできる希有な存在である。
会場は古い花街の一角に建つ木造建の歌舞練場で花道や桟敷席もあり風情たっぷり、外には花輪も飾られ提灯の飾られた畳敷き大広間は大入満員であった。五條会館はこの公演の盛況を機にこれから様々な催しに使われるようになるという。活気を取り戻したこの劇場の今後にも期待したい。
(まきた ばん/(株)シィー・ディー・アイ主任研究員、音楽学者
文化事業企画・調査・研究に携わる。4月の newOSK 日本歌劇団「春のおどり」(大阪松竹座)は気持ちのよい舞台で、OSK完全復活といってよい。喜歌劇楽友協会は5月の「マリツァ伯爵夫人」(森ノ宮ピロティーホール)で25周年・50回目の定期公演とのこと。
槙田盤 MAKITA Van