京都×神戸×パリ≒童謡

槙田 盤

発行年月: 20060820
掲載  : 京都芸術センター通信「明倫art」Vol.76 2006年9月号 音楽レビュー
発行元 : 京都芸術センター


京都×神戸×パリ≒童謡 槙田 盤
『深川和美の童謡サロン 夏の法然院<七夕さま>』
2006年7月6日  法然院(京都市)

 テレビでたまたま童謡が流れていても、すぐにチャンネルを変えそうになるのは、声楽家の声やオーケストラの伴奏が立派すぎたり、歌謡曲的編曲に違和感を感じることが多いからだ。しかし深川和美の童謡サロンにはそういう空気はない。七夕前夜の法然院さんは梅雨の湿気で山の気配が一層深く、会場となる庫裏の玄関には笹の枝や花が飾られていた。大きな屋根組の見える天井の高い板敷きの間に座り込んで、「アメフリ」「かたつむり」に始まり、「いんでこ大文字」「たなばたさま」までの14曲、リラックスして素直に楽しんだ。
 深川は、日本語で伝わる美しい歌を歌おうとして童謡にいきついたという。神戸に生まれ、京都で音楽を学び、パリに修行して帰ってきた彼女にとっては、童謡にたどり着くまでに、時代も場所も一回りしている。分析的に聴くと、母音の発声などに工夫が施されているのだが、歌の巧さをひけらかす歌い方ではない。また、童謡を郷愁の中に閉じ込めようともしない。深川は曲に素直にうれしそうに歌う。その楽しんでいる気分が伝わってきて、聴き手の童謡的世界が内側から呼び起こされるのであろう。
 その歌を、ジャズっぽい和声進行のピアノ(多久雅三)と、民族音楽的パーカッション(土居秀行)が支える。骨太のメロディーのときには、伴奏は弾けて遊んで多様な音楽観を示し、歌詞がおもしろいときには、その言葉遊びを支える演奏をする。ときにはタップダンス(伊藤敬子)が踊られる。彼ら4人は、それぞれのやりかたで童謡と(=童謡で)真剣に遊んでいるから、異なる要素が重なりあってひとつの世界を創り出している。童謡の世界をベースキャンプにして、あちこちに遊びにいって、また帰ってくるという感じだ。
 春夏秋冬、四季を濃密に感じる法然院に向かうところから童謡体験が始まる。これはお寺さんと周辺住民の理解があってのことであるが、2004年春に始められた童謡サロンも3年目、全国で小規模なコンサートを重ねているが、京都、法然院がホームグランドであるようだ。

(まきた ばん/(株)シィー・ディー・アイ主任研究員、音楽学者
 文化事業企画・調査・研究に携わる。
 童謡サロン、本当は、説教臭くて歌いたくない歌詞もあった。思い出したくもない世界観もまた童謡なのであろう。)


槙田盤 MAKITA Van