伝統芸能によってつながる思い

槙田 盤

発行年月: 20071220
掲載  : 京都芸術センター通信「明倫art」Vol.92 2008年1月号 音楽レビュ−
発行元 : 京都芸術センター


伝統芸能によってつながる思い  槙田 盤
京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター公開講座「京の芸能 六斎念仏の世界」
2007年11月25日  京都芸術センター フリースペース

 京都市内の10カ所以上で伝承されている六斎念仏踊りは、平安時代中期の空也上人による鉢叩き念仏をその起源としている。しかし今日に伝わる芸能系の六斎念仏は、念仏をとなえ、片手で持つ太鼓と鉦を演奏することを基本にしながらも、長唄や地唄から曲をアレンジして導入し、太鼓の曲芸的な打ちかたを洗練させた上に、獅子舞や壬生狂言の演目を演劇的に取り入れるなど、多彩な芸能ジャンルが組み合わされた構成となっている。
 公開講座の前半は、橋本治夫氏(京都中堂寺六斎会会長・京都六斎念仏保存団体連合会会長)によって、六斎念仏の現状と伝承の状況について実演付きで解説がなされた(司会・進行役は田井竜一准教授)。そのお話は親しみやすいものであったが、現実的な苦労もしのばれるものであった。近年は子どもたちへの継承も重視しているとのこと、口唱歌(くちしょうが)によって演奏を覚えている様子も配布資料によってよく理解できた。
 後半、全演目を演じる「一山(いっさん)打ち」は、楽しくかつ迫力のあるものであった。「四ツ太鼓」は子供から大人まで一人ずつ交代で打っていくもので、だんだんテンポが速くなり、演奏の技を競い合っているようだ。左手に持ち細いバチで叩く豆太鼓を2人が掛け合いで交互に打つ「越後獅子」、もう少し大きな太鼓を激しく踊りながら叩く「獅子太鼓」など、息があっていなければできないものだ。
 「猿廻し」という演目では、4歳の子どもが、まわりの小学生や大人の太鼓を真似して回り踊るさまがユーモラスであった。横で順番をもつ男子が無意識にバチさばきを真似しながら大人の芸を見つめる姿も印象的だった。芸能そのものに次の世代を育てる力があり、芸の精神が継承されているようであった。さらに、見ている人もみな、そのおもしろさを共有し、念仏によって人々の安寧を願う気持ちが伝わるところから、生まれ死んでいく者すべてがこの芸能によってつながっているように感じられた。
 ほとんど語られなかったが、獅子舞の「頭」のほうを担当する高校1年生が、今年4月末、五条通で交通事故にあい亡くなられたとのこと。太鼓や鉦の音は、その無念さをも力としているようにも聴こえた。この芸能が伝承されてきた時間の長さに比べれば人の命の長さは短いものだが、それでもこの芸能を愛し、伝えていかなければならないという思いが強く感じられた。
 2月24日には京都市域に伝わる六斎念仏の中から10団体が一堂に会する「京の郷土芸能まつり」が京都会館でおこなわれるとのこと。また、日本伝統音楽研究センターのウェブページでは、桂地蔵前の六斎念仏についての研究論文が公開されている。

まきた ばん/(株)シィー・ディー・アイ主任研究員、音楽学者
文化事業企画・調査・研究に携わる。/ご縁があって岐阜県下呂からさらに奥に入った「白雲座」の地歌舞伎を堪能することができた(11月3日)。地域に生きる芸能のレベルの高さと客席を含めた熱気に圧倒された。


槙田盤 MAKITA Van