小林研一郎、神戸でベートーヴェンを語り歌う

槙田 盤

発行年月: 20080320
掲載  : 京都芸術センター通信「明倫art」Vol.95 2008年4月号 音楽レビュ−
発行元 : 京都芸術センター


小林研一郎、神戸でベートーヴェンを語り歌う  槙田 盤
文部科学省現代GP(神戸大学)特別企画「コバケンの音楽塾」
2008年2月22日  神戸芸術センター 芸術劇場

 新神戸駅前に1月「神戸芸術センター」が開館した。その真新しいホールで、指揮者・小林研一郎が音楽への熱い思いを語った。戦時下であっても豊かな自然の中で育ち、様々な音を聴くのが好きだったとのこと。あるときラジオから流れてきた交響曲「第九」を聴いて、立っていられないほどの衝撃を受け、作曲家になりたいと思ったという。自分でピアノで弾きながらどう感じたか子細に語るのを聴くと、その衝撃が今日なお指揮者となった小林の中に新鮮なものとして存在していることがよくわかった。ジェスチャーたっぷりに舞台を歩き回り、語るだけでなく、小学校5年生のときに石川啄木の短歌をもとに作曲した「東海の小島」などを弾き歌いした。おかしかったのは、東京藝術大学の作曲科に入学したころの演奏会を再現しますと言って、ピアノの横を叩いたり弦を直接触って音を出したところ。「こんな音楽ならばやりたくない」と指揮科に入学しなおしたそうだ。
 後半は、ピアニスト(大室晃子)が弾くピアノ曲に対して、具体的なイメージを付与して指揮者が演奏の中身を吹き込んでいく様子を実演した。ショパンの前奏曲「雨だれ」も、和音の展開それぞれに、風景描写的な雨の音や作曲家の心のどよめきを具体的に感じて、それをナレーション的に語りながらご自身で弾いたあと、ピアニストの演奏は明らかに変化する。過剰で空想的だといった批判をすることは簡単であるが、形ばかり美しい演奏ではなく、演奏したいことをきちんと言葉でも表現でき、さらに、その音楽の中に人々が生きている喜びを肯定的に表現することは、混沌として息苦しい世の中で演奏家に求められている最も重要なのことではないか。
 このピアノ演奏付き講演会が入場無料で実現したのは、小林の思いやホールの支援もあったが、神戸大学が文部科学省の「現代GP(グッド・プラクティスの略)」という補助金によって「アートマネジメント教育による都市文化再生」を地域と大学とを結んで進めていくというプロジェクトによるものであった。神戸の人々は、大震災のあと、生きていく人間には音楽、芸術が必要不可欠であるということを実感している。このプロジェクトは、人々の暮らす都市の中に、より生活に近いところで芸術活動を活性化させることを目指して、大学が主体的に事業を展開し、それを実践的教育としている。コンサートだけでなく、神戸市灘区の人々が歌うハミングを録音し構成した音響的展示「ハミングプロジェクト」、アウトサイダーアートや「ちんどん概論」などのセミナー、ワークショップ、国際芸術祭を開催していくとのこと、今後も注目したい。
 さいごに小林のピアノにあわせて客席みんなで歌った「ふるさと」では、ホールいっぱい静かに歌声が満ちあふれた。

まきた ばん/(株)シィー・ディー・アイ主任研究員、音楽学者
文化事業企画・調査・研究に携わる。/2月10日沖縄で米軍海兵隊員に女子中学生が暴行されたという事件は「ちむぐりさ」だ(胸が痛い)。基地依存ではなく音楽でまちおこしを、とがんばっている「コザ・ミュージックタウン」で声をかけられたというのがくやしい。ラブ&ピース。


槙田盤 MAKITA Van