オペレッタで笑ったあとに残るもの
槙田 盤
発行年月: 20080820
掲載 : 京都芸術センター通信「明倫art」Vol.100 2008年9月号 音楽レビュ−
発行元 : 京都芸術センター
オペレッタで笑ったあとに残るもの 槙田 盤
兵庫県立芸術文化センター/喜歌劇「メリー・ウィドウ」
2008年6月21日〜7月6日 兵庫県立芸術文化センター 大ホール
震災復興のシンボルとして2005年に開館した兵庫県立芸術文化センターが、京都が生んだ大(!)指揮者であり芸術監督である佐渡裕プロデュースで夏に制作してきたオペラのシリーズ第4弾である。一昨年「蝶々夫人」と昨年「魔笛」の8公演から12公演に増えても、ほぼ完売となるとはすばらしい。さらに公演数を増やしてほしい、ほかのホールでもオペラを見たい、という声が高まるのではないか。オペレッタ(喜歌劇)の名作を取り上げ、狂言回し的な役どころに桂ざこばを起用したのも成功要因のひとつであろう(ダブルキャストで、観劇した7月6日は、ハンナ:塩田美奈子/ヴァランシエンヌ:天羽明惠/ダニロ:黒田博/カミーユ:経種廉彦)。
楽しませる工夫が満載であった。3幕の舞台が2部構成に整理され、オーケストラピットの前に銀橋(前舞台)がある。フレンチカンカンのシーンでは「天国と地獄」の曲での伴奏、最後はグランドフィナーレとして順番に歌手が歌い継いで、客席をおおいにわかせた。日本語翻訳の歌詞による上演だがさらに日本語の字幕がついて理解を助けてくれた。また、合唱やバレエのメンバーも多く、衣装も豪勢で重厚な舞台であった(演出:広渡勲/装置:サイモン・ホルズワース/衣裳:スティーヴ・アルメリーギ)。京都銀行のテレビCMを思い出させるながーいリムジンが登場するのも笑った。「オペラに新喜劇と宝塚歌劇の要素を加え、ここでしかできない舞台で楽しませたい」という佐渡のねらいは大成功している。兵庫芸術文化センター管弦楽団も、ホームグランドでのびのびと演奏しているようであった。
オペレッタを笑って見るのはうれしいのだが、ここまで全体のレベルが高くなると、肝心の歌の魅力が相対的に小さく感じられてしまう。歌そのものの迫力や魔力がもっと強く押し出されたならば、バカバカしいストーリーの中に見え隠れする人間の弱さ、強さが、理屈ぬきで響いてくるであろう。メディア経由でのコミュニケーションが増える中で生の舞台に希求されるのは、声に象徴される人間どうしの「直結」感なのではないか。
フィナーレの途中だったか、3幕のパリの町並みの屋根の上に大きな月が出たのを見て、阪神大震災の日の夜の満月を思い出した。パリで恋が成就しようとしまいと、地震があろうとなかろうと、どこかでまた新しい「メリー・ウィドウ」が生まれ、多くの人が楽しんでいるに違いない。震災で亡くなった先輩も、その後亡くなられた知人も、この舞台をいっしょに楽しんでいたかもしれないと思うことにしよう。
まきた ばん/大学職員、音楽学者
びわ湖ホール「フィガロの結婚」は濃厚で、きわめてレベルの高い公演であった(7月18〜21日・中ホール)。オケピットの大阪センチュリー交響楽団も活力ある演奏であった。この舞台で笑い感動したものに、このホールやオケの廃止を口にすることはできまい。/大阪で毎年2演目3公演づつ上演している喜歌劇楽友協会が、今年は公演がなく、次は来年1月に「メリー・ウィドウ」とのこと、待ち遠しいものだ。
槙田盤 MAKITA Van