呼吸する音楽を呼吸する

槙田盤

発行年月:20090820
掲載  :京都芸術センター通信「明倫art」Vol.112 2009年9月号音楽レビュ−
発行元 :京都芸術センター


呼吸する音楽を呼吸する
長岡京室内アンサンブル 
 京都府立府民ホールアルティ 2009年7月12日

 前売券が売り切れて満員のホール。客席が暗くなったがステージが明るくなる 訳でなく、浴衣姿の女性が小さなキャンドルに次々と灯をともしはじめ、その光 のばらけた中に楽員が14人でてきたかと思うと、拍手の収まる前に薄暗い中で 演奏し始めた。(モーツァルトの)アイネ・クライネ・ナハト・ムジークだ。歯 切れよく、アップテンポだがリズムの緩急が強く、聞き慣れた名曲が生き生きと 立ち表れてくる。指揮者はいない。からだを揺らし、ときおり振りかえってアイ コンタクトしながら演奏を進めていく。その音楽の流れは一直線ではなく、回転 運動であったり、波のようであったり、音が出る瞬間それぞれを楽しんでいるか のようだ。特にこの曲では短い弓を使っており、古楽器を演奏しているような躍動感 があった。
 長岡京室内アンサンブルは、桐朋学園で齋藤秀雄に学び海外で活躍していた森 悠子が1997年に結成したもので、室内楽を構築する技と感性を若い弦楽器奏 者が森から学び、ともに演奏する場となっている。楽曲への理解の深さと演奏家 どうしのアンサンブルを重視する齋藤メソッドに、欧米で学んだ古楽器の演奏法 などを加え発展させて、現代の京都で継承しているようだ。今回の演奏会の直前にも 合宿するなど、技術だけでなく感性を共有することで、自由でありかつ緻密な合 奏を可能としている。
 メンデルスゾーンの「バイオリン協奏曲二短調」(メニューイン校訂版)で は、独奏の高木和弘が中心に立ってのびやかな音色を響かせ、それを親密なアン サンブルが支え、ともに音楽を楽しんでいた。休憩をはさんでバーバー「弦楽の ためのアダージョ」は、緊張が持続し、各パートで受け継ぎながらゆっくりと高 揚していく様を確信的に示した。森が第二バイオリンに移って演奏したヒナステ ラの「弦楽のための協奏曲作品33」では、人間社会の息苦しさ、不安といったもの を音楽で表現することに成功している。こうした現代音楽へのチャレンジが、演 奏家の幅を広げ、観客の耳も開かれていくのであろう。
 これだけ本格的なプロの演奏団体が地元で育っていることをうれしく思うが、 ここまでレベルが高いならば、アンサンブルとしての調和の中に、もう少し各演 奏者の魅力が輝くような演奏ができるのではないか。音楽の流れが14人の演奏 者の呼吸から出てくるものとすれば、聴き手は、その全体や部分を聴きながら、 自分の呼吸と一致したりズレたりするのを楽しんでいる。その期待と 裏切り、個々人の魅力と全体のまとまり、自由と型のせめぎあいが、おいしいと ころなのだ。アンコールの「魅惑のワルツ」(映画「昼下がりの情事」の主題 歌)の「呼吸」を感じながら、そこの熟成を期待してしまった。


まきた ばん/大学職員、音楽学者
アイネ・クライネ・ナハト・ムジークは、「夜の曲」だからキャンドルの光で演 奏することにこだわり、今回は劇場で火を使うことに許可が出たのでようやく実 現したとのこと。ホールや消防局の見識の高さに感謝したい。願わくは、次は避難誘導灯も消してほし いな。


槙田盤MAKITAVan